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Brother - 短編小説 –

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Brother / Labo life


弟とほとんど言葉を交わさないまま過ごしてきた「ぼく」は、
突然失った存在と、悲しみを語ることへの違和感のあいだで、
自分の感情をうまく掴めずにいた。

第一章

兄弟が仲がいいって、少し羨ましいと思う。
でも、今さらだという気持ちも、同時にある。

どう言えばいいのだろう。
ぼくには、「ありがとう」とか、「明日なにする?」とか、
そういう何気ない日常の会話が、ほとんどなかった。

あっけなく、居なくなった。
事故だった。

正直、悲しい話をするつもりはなかった。
ただ、息をするのと同じくらい自然に、
時間の流れから外れていった。

悲しい話をすると、
それは話を盛り上げるために言っているのだろうと
受け取られてしまうことがある。
ぼくは、そういうのがあまり好きじゃない。

英雄を歌っている子どもたちも、
命を捨ててまで物語を作るな、と言っている。

…そんな言葉が、ふと頭をよぎる。

それでも、
気づけば、ひどい喪失感に苛まれている。


ある朝、旅に出ているはずの弟が、
何事もなかったように食卓に座っている。
ぼくは、その現実感のなさを受け入れられないまま、
懐かしさと戸惑いの中で、弟と会話をしている。

第二章

ある日の朝のことだった。
いつも通り、ひとりで食事をしていると、
旅に出ているはずの弟が、台所にいて、
何事もなかったように、ご飯を食べていた。

あれ?

どうしたの?

声に出したのか、心の中で言ったのか、
自分でもわからない。

「お前、どうしたんだよ?」

「ん? 何が?」

「いや、何がって……お前……」

「早く食べなよ。遅れるよ」

そこにいたのは、
紛れもなく弟だった。

悪い夢を見ているのか。
それとも、誰かのドッキリなのか。

タイムリープ?!
―どちらにしても、現実感がなさすぎた。

茶碗の縁に、弟の箸が軽く当たる音がした。

久しぶりと言っていいのか、
なぜか、いつかの温厚だった弟のような気がした。

懐かしさと戸惑いが入り混じったまま、
それでも、ぼくは弟と会話をしていた。


兄弟仲が悪かった過去と、
周囲の「普通の兄弟関係」への視線。
簡単な言葉では片付けられない感情の中で、
ぼくはまだ、兄弟という関係に小さな期待を残していた。

第三章

兄弟仲が悪かった。
正直に言えば、死んだような関係だった。

周りの友人たちの兄弟関係が、
少しだけ羨ましいと思ったこともある。

男の兄弟なんて、そんなものだよ、
そう言われることもあった。

でも、どうしてだろう。
そんな言葉で片付けてしまっていい問題じゃないと、
どこかで思っている自分がいる。

もしかしたら、
まだ、何かを期待しているのかもしれない。

「ありがとう」

そう言ったところで、
ぼくは病院のベッドの上で目を覚ました。

「あなた、自宅で倒れて、
救急車で運ばれたのよ」

母の声がした。

ぼんやりとした意識の中で、
心配そうな母の横顔を見ながら、
さっきまでのことを考えていた。

ねえ、ぼくさ。
弟とご飯を食べててさ……。

「何を言ってるの。
夢でも見たんじゃないの?」

「うん。そうかもね」

小さく笑って、そう答えた。

「たぶん、そうだよね」

あとから母に聞いた話だけれど、
ぼくの部屋の食卓には、
茶碗と、その上に置かれた箸があったらしい。

その夜、
ぼくは自分の部屋の食卓に座ってみた。

箸を一本だけ持ち上げて、
そっと、茶碗の縁に当てる。

あの音は、
やっぱり、同じ音だった。

それを聞きながら、
ぼくは思った。

ほんの少しだけ、
ボタンを掛け違えたままだった何かを、
やり直すための時間を、
もらったのかもしれないと。


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